山岳遭難の統計を調べていて、あらためてうーんと考えさせられた。以下は過去10年の死亡者・行方不明者の年齢別割合である。
— 森山憲一 (@kenichimoriyama) August 26, 2024
20歳未満:0.9%
20-29:2.5%
30-39:4.5%
40-49:8.8%
50-59:13.7%
60-69:26.9%
70-79:30.2%
80-89:11.4%
90歳以上:1.0%
不明:0.1%
こんなツイートをした。
死亡・行方不明者は50歳以上だけで83%を占める、高齢登山者のリスクは顕著に高いということがいえそうなので、高齢登山者への安全啓発が必要なのではないか……ということを続けて書いている。
これが思いのほか拡散され、多くのご指摘・ご意見をいただいた。いわく「高齢登山者の数が多いだけなのではないか」「高齢者には山菜採りの事故が含まれているのではないか」「遭難率としては若者のほうが高いのではないか」などなど……。
書いたことはジャストアイデアもしくは仮説のようなことで、厳密に詰めて考えたものではなかったのだが、これだけ拡散されると、もう少しちゃんと考えないといけないなと思った。
そのなかで最重要な検討事項は「高齢登山者の数が多いだけなのではないか」ということ。高齢登山者の数が多ければ、それに比例して死亡・行方不明などの事故数が増えるのも当然……というわけだ。そこはわかっていたのだが、全登山者の年齢別人口のデータを持っていなかったので、自分の印象を書くにとどめていた(50歳以上の登山者が5割、それ以下が5割と見積もった)。
そうしたら、いただいたリプライのなかで、総務省統計局の統計を教えてくれた方がいた。私は登山者人口のデータというとレジャー白書のものくらいしか知らなかったのだが、統計局の統計を見ると、かなり細かく登山者のデータをとっている。そこには年齢別データもあった。
そこで、この統計(令和3年社会生活基本調査)を使って、さらなる検討を加えてみることにした。その結果が以下である。
登山者人口は860万人!
統計局の調査によれば、登山者の全人口は約860万人。レジャー白書では500万人ほどになっているので、ずいぶん多い印象だ。年齢別に見ると、以下のようになる。
10代:75万人
20代:105万人
30代:120万人
40代:170万人
50代:156万人
60代:126万人
70代:92万人
80代以上:17万人
総数:861万人
50歳未満が470万人で約55%、50歳以上が391万人で約45%。おお、自分の見積もりはいい線突いていたじゃないかと悦に入ることができた。
これを割合(%)表示にして、死亡・行方不明者の割合と比較するとこうなる。
10代:8.8%(死亡・行方不明者0.9%)
20代:12.2%(同2.5%)
30代:13.9%(同4.5%)
40代:19.7%(同8.8%)
50代:18.1%(同13.7%)
60代:14.6%(同26.9%)
70代:10.7%(同30.2%)
80代以上:2%(同12.4%)
20代から70代まで年代別の人口比はほぼ均等に10%台に収まっているのに対して、死亡・行方不明者の割合は60代・70代で顕著に跳ね上がっている。やはり高齢登山者は危険度が高い……といえそうなのだが、総務省の統計には他にも興味深いデータがあった。それは1年間の登山日数だ。
高齢者は山行日数が多い
統計では、1年間に何日登山に行ったかということまで調べていた。1年に1~4日/5~9日/10~19日/20~39日/40~99日/100~199日/200日以上の7段階に分け、それぞれ年齢別に数を出している。
これを見ると、高齢者、とくに60代と70代は他の年代に比べて山行日数が多い人が多い。年に1~4日という人の数は、50歳未満:50歳以上が6:4の割合なのだが、5~9日になると5:5になり、20~39日は1:3、200日以上で3:7となる。高齢者はよく山に行っているという傾向が明らかだ。
年に1日しか山に行かない人と100日行く人では、後者のほうが、1年のうちに事故に遭う可能性が高いことは自明。となると、山行日数と死亡・行方不明者数を比べるのが最もフェアといえるだろう。
そこで、年代別に1年間の山行日数を計算してみた(統計では1~4日などと幅があるので、間の数字をとって計算)。その結果得られた、1人あたりの年間平均山行日数が以下である。
10代:5.6日
20代:4.6日
30代:5.9日
40代:6.0日
50代:7.6日
60代:10.5日
70代:15.1日
80代以上:11.5日
こうしてみると、60代以上の山行日数が顕著に多くなっていることがはっきりする。
さらに、のべ山行日数を年代別に出し、そのボリュームを%で表示すると以下のようになる。
10代:6.3%
20代:7.1%
30代:10.5%
40代:15.3%
50代:17.6%
60代:19.8%
70代:20.6%
80代以上:2.8%
総人口では50歳未満:50歳以上=55:45だったが、総山行日数では40:60と逆転する結果になった。
最後に、これに死亡・行方不明者の割合を合わせてみよう。
10代:6.3%(死亡・行方不明者0.9%)
20代:7.1%(同2.5%)
30代:10.5%(同4.5%)
40代:15.3%(同8.8%)
50代:17.6%(同13.7%)
60代:19.8%(同26.9%)
70代:20.6%(同30.2%)
80代以上:2.8%(同12.4%)
単純な総人口と比べたものからは少し差が縮まった印象だ。
ということで、登山者数と山行日数をかけあわせて改めて検討した結果としては;
・高齢登山者は他年代より山に行く回数が多いので、それにともなって事故数も増える
・ただし、高齢登山者が若年登山者と比べて危険度が高いことは間違いない
――ということがいえるように思う。
統計疲れましたが面白いです
数字ばかり扱ってきて疲れた。頭パンクしそう。もし計算が間違っていたり数字の解釈がおかしかったりする箇所があったら、コメント欄で教えていただけると幸いです。
統計局のデータ、仔細に見るとなかなか面白いです。1年に200日以上も山に行く75~79歳が5000人もいることなどがわかります。六甲山で毎日登山している人などでしょうかね。
それから、年に1回でも登山にいけばこの統計にカウントされるので、友人や家族に連れられてたまたま1回行っただけとか、学校登山とか会社の合宿とかの人も入っていると思われます。それに対して、年に5~9日以上行っている人は主体的に登山を楽しんでいる、いわゆる登山愛好家といえる層になると思います。その人たちの数は約257万人。実態的な意味での「登山者数」はこちらの数字になるんじゃないか……なんてこともわかります。
あと、登山だけでなくていろいろなスポーツについて同様な統計をとっていて、そのなかにはクライミングもあります。「登山系」という名称になっていて、キャニオニングやシャワークライミング(沢登り?)などと合算されていますが、その総人口は約10万人になっています。インドアクライミングの人口は50万人といわれることも多いので、ちょっとこの10万人という数字は少なくないか?と疑問が湧きますが、どうなんでしょうかね。
ちなみに基にしたデータは以下からとりました。統計局の統計はエクセルデータをダウンロードしないと見られず、しかも大した説明もないので最初は面食らいますが、根気よく探せばわかると思います。