ニトリがなんと約3000円という破格のテントを販売しています。
1~2人用テント(HC)
近ごろはAmazonなどで中国製の格安テントが多く販売されていますが、それでも6000~7000円くらいはします。約3000円というのはさすがに聞いたことがない。
これを見つけた知人がこうツイートしていたのを見かけました。
興味を引かれた私はすぐさま反応。
なにしろ3000円であります。使えなくてすぐ捨てる羽目になっても惜しくない金額。その場でポチって注文してみました。
ニトリ3000円テントのスペック
早速届きました。ホームセンターなどで売っているキャンプ用品でよく見るような箱入りでした。
まずはスペックをチェックしてみよう。
フロアサイズ:短辺120cm×長辺200cm
天井高:110cm
重量:約1.4kg
付属品:張り綱4本、ペグ8本、収納袋
サイズ的には1~2人用といったところ。フライシートはなく、いわゆるシングルウォール設計です。天頂部に小さな「屋根シート」なるものが付いていますが、これはフライシートとはいえないでしょう。
箱から出してみるとこんな感じ。細長い収納袋にテント本体とポールが入っています。下は付属の張り綱とペグ。ペグは格安キャンプ用品によくある、曲げただけの丸鉄棒。
テントのフロア部分はブルーシートのような素材でした。昔、アメリカで8000円くらいで買ったコールマンのキャンプ用テントが同様な仕様でした。ちょっと硬くてガサガサするので収納性が悪いですが、防水性とか耐久性はとくに問題ありません。
ポールはこんな感じ。グラスファイバーのロッドを金属製の継ぎ具で連結させるタイプ。これも格安コールマンと同じ仕様なので個人的にはなじみがあります。
重量を測ってみたら1.34kgでした。カタログスペックは1.4kgなので、公称より軽いということになります。重量的にはアライテントの定番品「エアライズ1」と同じくらいなので、この手の格安テントにしてはかなり優秀。登山で使えるレベルの重さに抑えているといえます。
ただしこのままだとパッキングしにくいので、手持ちの収納袋に替えて、同時にしょぼいペグも手持ちの軽量なものに交換しました。
-10℃の八ヶ岳で実戦投入
やって来たのは3月中旬の八ヶ岳・黒百合平。標高は約2400m。テントを入手してからすぐに出かけることができなかったので厳冬期ではなくなってしまったし、北アルプスでもないけれど、まだまだ雪山という環境なのでまあいいでしょう。
ちょうど天気がよく、ほぼ無風でもあったので、日中は暖かさすら感じるほどだったのですが、日が陰ると急速に冷え込み、最低気温は-10℃ほど。
オーソドックスなクロスポール構造で、フライシートもないシングルウォールなので設営は簡単なのですが、少々問題も。テントのスリーブにポールを通す際、継ぎ具が引っかかりやすくてスムーズに通せないのです。これはこの形式のポールあるある。設営時に風が吹いていたりして余裕がない状況だと、けっこうイラつくポイントでしょうね。
一方、普通の登山用テントのポールはこういう段差のないスムーズな表面になっています。工作コストがかなりかさむと思うのですが、そうすることでスパッと一撃でポールを通せるので、コストをかけるだけの価値はあるというわけです。
天頂部はひもでポールを結んで固定。登山メーカーのテントはフックをかけるだけなどのワンタッチになっていることが多く、ここもやはり格安ならではの使い勝手の悪さが出てしまうポイントです。
テントのサイドウォールには「PAIR DOME TENT Montagna」という文字が。Montagnaというのはブランド名? それとも製品名? と思って調べてみたらこんなページが。ロゴが同じなので、作っているメーカーはここだと思われます。この会社がニトリに納品しているということなのでしょうか。
これが天頂部に付く「屋根シート」。なんでこんなパーツが?
内側から見ると、テント本体の天頂部はメッシュになっています。ここから雨が直接居室内に入ってきてしまうので、屋根シートはそれを防ぐ役割を担っているわけです。
テント内部はこんな感じ。横幅が120cmあるので、ソロで使うにはかなり余裕があります。荷物が多くなりがちな雪山登山でも問題なし。靴を中に入れても邪魔にはなりません。
中から入口側を見たところ。スペースに余裕があって居心地はけっこういいです。
シングルウォールなので気になるのは防水性。ゴアテックスなどの防水素材が使われているわけではなく、どこまで濡れを防いでくれるのかは不明。縫い目にはシームテープが貼られているので濡れには配慮してあるようなのですが、フルコートしてあるわけではなく、中途半端なところでシームテープが途切れていたりしてやや不安。
フロアのブルーシート素材とサイドウォールの継ぎ目はシーム加工がありません。ここが防水されていないのはけっこうキツい。大雨になったらここから浸水してくるものと思われます。
撥水加工はされているようで、水は弾いてくれます。基本的に雨が降らない(雪になる)雪山環境であれば、防水性はそれほど問題にはならないでしょう。
が、雪山で使うことを考えると、問題は防水性よりもむしろ保温性です。
このテント、入口はメッシュパネルとメインパネルの二重になっており、メッシュパネルはフルクローズできるのですが、
メインパネル下側にはなぜかファスナーがなく、開けっぱなしになっています。なので矢印のような隙間ができてしまい、ここから外気がどんどん入ってきます。通気性良好とはいえるのですが、雪山では寒くてまったく具合が悪いことになってしまいます。
通気性がよすぎてスースーするところをのぞけば特に居心地は悪くなく、こんなところで-10℃の一夜を過ごしてみました。
一夜明けての感想
それなりに気温が低いことをのぞけば天気はきわめておだやかでほぼ風もなく、無事に朝を迎えることができました……と言いたいところなのですが、実際は寒くて夜24時前に目が覚めてしまい、その後は寒さで眠れなくなってしまいました。
が、これはテントのせいではなく、寝袋のせい。間違えてなんとハーフシュラフ(下半身だけの寝袋)を持ってきてしまったのです。ダウンジャケットは持っていましたが、それほど分厚いものではなかったのでさすがに不十分。久々に寒さで眠れないという体験をしてしまった。ちゃんとした雪山用寝袋を持ってきていれば、普通に朝まで熟睡できたことと思われます。
これは目が覚めた夜中に撮ったテント内部。サイドウォールに盛大に霜がついています。しかしシングルウォールテントならこんなもの。このニトリテントが特に霜が付きやすいわけではありません。
寒さに耐えられず、2時過ぎには寝ることを諦めて、朝食を作ることにしました。バーナーに火をつければ暖房にもなると思ったのです。
しかしバーナーの火をつけてもどうも暖かくならない。テントの通気性が良すぎて、暖気がどんどん外に逃げているようなのです。寒さに震えながらラーメンを作り、それを食べているうちにようやく身体が温まってきました。
【念のため注意】
テント内でバーナーを使用するのは、雪山登山では一般的に行なわれていることではありますが、実際に行なうときは換気に十分注意してください。一酸化炭素中毒で死亡したという事故が実際にありますし、私の知人の範囲でも死にかけたという話を何件か聞いたことがあります。テント内でのバーナー使用は厳禁としているテントメーカーも多く、十分な注意が必要です。
結論
こうして雪山で使ってみたわけですが、「ニトリの3000円テントは雪山で使えるか」と問われれば、「使えないことはない」という答えになります。だって、現に私は深刻なトラブルに陥ったわけでもなく、こうして無事に下山しているわけですから。
極論を言ってしまえば、雪山で使えないテントはないとも言えます。軽量化を追求して雪山でもツエルトで寝泊まりする人だっているくらいです。私も-20℃の南アルプスでツエルトひとつで座りビバークしたことがあります。死ぬほどつらかったですが、死にはしませんでした。それに比べれば、ニトリのテントは間違いなくはるかに快適です。
しかし、「おすすめするか」と問われれば、「おすすめはしない」と言わざるを得ません。登山で使うことを考えると、やはり防水性が気になります。このテントで大雨に降られたら、かなり悲惨な一夜を過ごすことになると予想されます。そのつらさは「3000円なんだから文句はいえない」というレベルではないと考えます。
登山用のツエルトやシェルターの類も雨や風への弱さという点ではニトリと同じかそれ以下なのですが、引き換えに圧倒的な軽量性というメリットがあります。その点ニトリは1.34kg。値段を考えればかなり健闘していますが、特別に軽いわけではありません。いかに格安といえど使用上のメリットがなく、結局買い換えてしまうことになると思われるのです。
ただし、キャンプなら別です。特に、雨が降ったら車やキャンプ場の施設にすぐ逃げ込めるような環境であれば、このテントでもアリだと思います。
というか、そもそもそういう用途のためのテントなのでしょう。登山で使うことを想定したものではないだろうし、ましてや雪山で使うなんてことは考えてもいないはずです。そんな酔狂なテストをした私が悪いということであります。
興味本位でやってみた実験、当たり前といえば当たり前な結論になりましたが、頭でわかっていることでもやらないよりはやってみたほうがいいんじゃないかというのが信条。何かの役に立ったでしょうか……???
【追記】
Amazonにも売ってました。たぶんこれ同じものだと思います。Amazonではカラーがいくつか選べるうえ、より小さいサイズ(横幅95cm)もあります。値段もわずかに安い。
通りすがりのキャンプ初心者ですが素晴らしいレビューだと思います
返信削除ここまで公正中立で分かりやすいレビューをできる筆者を尊敬します
テントの周りに雪の壁を作れば風の影響はかなり減ると思いますよ。ツエルトに比べれば快適ですが、本格的な雪山登山には向いて無いのは確かですね。
返信削除「雪の壁を作れば風の影響はかなり減ると思いますよ。」
削除釈迦に説法ということわざを知っているかい?w
テントの通気性が良いとは書いてありますが、風が強かったとは書いてませんよね?もう一度はじめから読み直してご覧になっては?
削除山を舐めないほうがいい。
返信削除森山憲一に山を舐めるなって
削除香ばしいのが涌いたな
黒百合でしょ
削除安全性は担保されてる
ってか絶対わかんねえだろな
以前、高尾山とかで痛い思いをして苦労された
削除経験から親切で言ってくれてるんだと思いますよ。
使えるか使えないかは、状況が悪いときに使えれるか否かでは?
返信削除登山ですから、それが前提でないと、自殺行為ですよ。
つまり、使えないが答えだと思います。
使えるか使えないかは、状況/環境に応じて使えれるか否かでは?
削除初心者はそういう判断がちゃんとできないと自殺行為ですよ。
つまり、使えないとの決めつけはアナタ個人の感想だと思います。
「状況が悪い時…」その通りですよね。
削除安物で命懸けレビューGoodです。こういうの一番好きです
返信削除Twitterで切り抜いた返信を見に来たけど普通に言ってること間違いじゃない
返信削除こういうのアホが見て、雪山とまではいかないが夏山で使って大変なことになるんじゃなかろうか
返信削除そういう阿呆は遅かれ早かれ大なり小なりやらかすんじゃあないでしょうか
削除ちゃんと文章中に注意点とか書いてあるじゃん。
削除それでアホするなら自己責任でしょ。
過保護か。
冬でも3シーズンテントを愛用している身としては、とても面白い記事でした。装備に一番お金をかけるべきなのはわかっているのですが、安さと努力と工夫で頑張るというのも捨てがたく。
返信削除山で使うスマートウォッチの記事といい、「使ってみた」シリーズはとても好きなのでこれからも楽しく拝見させていただきます。
若かったら自分でも試してみたかもしれません。笑いながら読ませていただきました。こう言うの好きです。
返信削除商品レビューありがとう御座います。登山でのキャンプはさておき、ソロキャンやバイクツーリングには良いですね。
返信削除黒百合で穏やかな天候ですもんね…
返信削除冬山想定なら、風と積雪の検証をお願いします。
冬山の強風に吹かれたり、夜間に潰されかけない程の積雪に耐えられるか?
もし安いポールが折れたら…命の危険!
寒さは…冬季登山用テントでもそんなに変わらないと思いますよ…。
ニトリで現在1037円でした。雪山ではなくこれからのシーズンに向けての練習で使うには良さそうだなと言う印象です
返信削除こんにちは、いつも興味深く拝読しています。ありがとうございます。私の所持品でのレポに嬉しくなってしまい、コメント失礼いたします。
返信削除このテント、キャンパーの間では数年前から通販サイトやホームセンター、激安ショップなどで扱いがあり、通称「ゆるキャンテント」と呼ばれてるヤツでして、私も持ってますが。ニトリでも扱い始めたのですね。
さすがにコレを登山で使う発想はなかったので、面白かったです(^_^;)
このテントのドア部のスキマと天井メッシュは、ベンチレーションなんですよね。雨の日でも使える設計ではそもそもなく、結露軽減のために下部から冷たい外気を吸い上げ、室温で暖まり湿気た空気を天井で逃がす仕組みです。
次回、ぜひDAISOのエマージェンシーシェルター(https://jp.daisonet.com/products/4994163368229)での登山泊チャレンジも期待しています(о´∀`о)
DAISO(笑) これは知りませんでした。使ってみたいですね。
削除沢ヤさんが野営で使う、いわゆる「農ポリシート」にアルミ蒸着を施しただけ、みたいなシロモノでして。
返信削除外からは反射で見えないのに、中からは全て丸見え、というなかなかエキサイティングなシートとして有名なのです。
もちろん雨露は防げますので、夏山でのター泊代わりには十分のハズですよ(*´ー` *)
や、私に山でコレ使う勇気はないのですが(^_^;)