久しぶりの読者様還元レビュー(意味はこの記事冒頭に)。
先日、このような記事を書きました。
登山で使えるスマートウォッチを研究したいすると、記事を読んだAmazfit(アマズフィット)PR担当の方から連絡があり、一度アマズフィットのスマートウォッチを使ってみてもらえないかとのこと。使用にあたってとくに縛りはなく、気に入ればなんらか記事にしてもらえるとうれしい程度の条件だったので、喜んで使わせていただくことにしました。
該当機種はAmazfit T-REX 2。今年発売された新型スマートウォッチで、アウトドア使用を意識したモデルとのこと。ガーミン・インスティンクト2やスント5ピークの競合になりそうなモデルです。
これを1カ月、ほぼ付けっぱなしで使ってみました。使い心地などだいたいわかったので、以下詳しくレビューしてみたいと思います。
その前に。
スマートウォッチは、現状、大きく分けて以下の3つがあります。
① アップルウォッチ
② グーグル Wear OS系
③ その他(独自OS系)
①と②はiOSとAndroidみたいなもので、本質的な違いはないのですが、③は決定的に異なるポイントがあります。それは原則的にアプリの追加ができないということ。
①と②はスマホのようにさまざまなアプリを自由にインストールできる一方、③はできません。つまり、ヤマレコやYAMAPなどの登山アプリを使うことはできないわけです。そしてT-REX 2は③に当たります。
もうひとつお断りを。スマートウォッチは機能がものすごく多岐にわたり、使い方次第で評価はがらりと変わるので、ひと口にいいとか悪いとかいいにくいものでもあります。この記事ではあくまで「登山で使ったときにどうか」という観点でレビューしていますので、その点ご留意を。
機能全部盛り
アマズフィットはアウトドア界ではなじみがありませんが、スマートウォッチ界隈では知られたブランド。シャオミのスマートウォッチ(スマートバンド)も中身はここが作っていたりするそうで、技術力には定評のある会社のようです(Amazonのニセモノのように聞こえるので、ブランド名はどうかと個人的には思うけど)。
T-REX 2はこのアマズフィットのフラッグシップにあたり、最新の機能がこれでもかと詰め込まれています。
登山では長らくABCウォッチ(Altimeter=高度計、Barometer=気圧計、Compass=コンパスを備えた腕時計)が定番とされてきましたが、T-REX 2はこのABC機能に加えて、GPS、心拍計、歩数計、パルスオキシメーターまで備えた「全部盛り」的な腕時計になっています。
これは登山中の表示画面。現在時刻、気圧、心拍数、標高が表示されていますが、これは私の設定で、ほかにも表示するデータは好みに応じて自由に変えられます。
歩行距離とか歩行時間、歩行スピード、歩数、傾斜角、消費カロリーなどまで選べます。個人的には血中酸素飽和度の数値も表示させたいのだけど、それは選べないみたい。
画面はスマホにもよく使われているAMOLEDという有機ELディスプレイで、普通の液晶よりコントラストが高く、かなり見やすいです。
光の強い晴天下では液晶画面は見にくくなってしまうことがありますが、AMOLEDディスプレイならかなりマシ。コントラストが下がりますがこれくらいには見えます。
要はスマホ画面と同じようなものなので、夕方や夜間でもまったく問題なく画面を確認できます。山での見やすさは十分と感じました。
ちなみに、通常時の文字盤画面は好みでいかようにも変えられます。私は冒頭の写真の文字盤で使っていますが、そのほかにも現時点で100種類以上選択肢があります。このへんはスマートウォッチならではというところ。
こういうクラシックなデザインも
いかにもデジタルガジェット風
こんなのも選べる
ルートナビゲーションは使えるか?
T-REX 2の売りのひとつに、ルートナビゲーション機能があります。ルートから外れたときに警告を出してくれたり、正しいルートへの復帰を示してくれるというものです。
これは問題なくルートをトレースできている場合。緑の線は歩きたいルート、白い線が歩いてきたライン、そして矢印が現在地を示しています。地名や等高線は表示されないので、正確な現在地がわかるわけではありませんが、歩きながらパッと見て、問題なく登山ができているか確認するくらいには使えます。
これはルートを外した場合。緑の線から明らかに離れていっていますよね。コースロストしているのが視覚的にわかりやすい。
ルートを外れると、電子音とバイブレーションで知らせてくれます。画面もこんな具合になるのでわかりやすい。これらは正しいルートに復帰するまで5分間隔くらいで定期的に知らせてくれるので、気付かないということはないでしょう。
なお、画面に「逸脱追跡」とありますが、これは「ルート逸脱」のこと。「正しいルートから0.09km(90m)離れていますよ」という意味です。このように日本語化がいまいち甘い部分があります。これについては後述。
こうして無事、本来のルート(緑線)に復帰。めでたし。
こんな感じで使えるので、道迷いが心配な初心者や、コースロストしやすいルートに行くときなどには便利かと思います。
ただし個人的には「あれば確かに便利だけど、そこまで劇的に貴重な機能ではない」というのが感想です。
というのは、スマホのヤマレコやYAMAPアプリでも同じことはできるから。T-REX 2でないと実現できない機能というわけではないのです。T-REX 2のアドバンテージがあるとすれば、手首にバイブレーションで知らせてくれるので、スマホよりコースロストしたことに気づきやすいということくらいでしょうか。
もうひとつの難点は、事前にルートデータを設定しておかなければいけないこと。デジタルガジェットが苦手な人は、ここが面倒に感じるかもしれない。あと、当然ながら、山中でルートを変更したときはこのナビゲーションは機能しません。現場でルートデータを設定し直すこともできなくはありませんが、あまり現実的ではないでしょう。
ただし以上は普通の登山での話。トレイルランニングでは絶大な威力を発揮するだろうと感じました。トレランでは悠長に地図読みをしている余裕がないので、腕時計だけでナビゲーションをコントロールできるのはものすごく便利なはず。とくに、コースが決まっているレースなどでは必須の装備といってもいいんじゃないでしょうか(トレランレースでは公式でコースのgpxデータを配布しているそうなので、やってる人の間ではすでに常識なのかも)。
あと、ディスプレイのクオリティが高いので、ナビゲーション画面がガーミン等の液晶より見やすいのもいいところですね。
さて、以下は、1カ月使ってみての私の全体的な感想を述べてみます。
【いいところ1】バッテリー持ちがよい
T-REX 2でもっとも気に入ったところがこれ。
スマートウォッチの最大の泣き所がバッテリーであります。アップルウォッチは原則的に毎日充電が必要だし、Wear OS系も、最強クラスのTicWatch Pro 3 Ultra GPSやGalaxy Watch 5 Proでもせいぜい2日まで。3日は持ちません。
それに対してT-REX 2はメーカー公称で24日間バッテリーが持ちます。まあ、これは機能をほとんど使わない最大値みたいなもので、実際に使っているとそこまでは持ちませんが、私の場合で15日間は持ちました(デフォルト設定で24時間付けっぱなし。2日に1回1時間ほどランニングなどをした)。日常生活でもこれだけ持ってくれれば十分と感じます。
登山では長時間GPSを動かすので15日も持ちませんが、1週間くらいまでの登山なら対応できそうです。
具体的に言うと、GPSを動かして8時間歩いたときのバッテリー消費は13%でした。GPSをオフにすればバッテリー消費は劇的に少なくなるので、登山での1日(24時間)の標準的な消費量は計算上約17%。登山で普通に使って6日は持つ計算です。
なお、デフォルトではGPSが高精度設定になっています。この設定で7時間山を歩いたら24%減りました。上に書いた13%は、低精度に設定したときのもの。通常の登山であれば、この設定でも全然問題ないくらいの精度が出たので、低精度設定で使うことをおすすめします。
【いいところ2】物理ボタンでも操作可能
T-REX 2は、100m相当の防水性、-30℃でも動作する耐寒性、米軍MIL規格準拠の耐衝撃性など、アウトドアで役立つタフネス機能を全面に売りにしています。もちろんそれらは登山の現場でありがたい機能なのですが、個人的にもっとも便利に感じたのは、物理ボタンで操作可能になっているところでした。
スマートウォッチはスマホのように画面タッチで操作するものが多いのですが、山では、画面や指が濡れていたり、手袋をしていたりなどして、タッチ操作ができないことがよくあります。
その点、T-REX 2には物理ボタンが4つも付いていて、ほとんどすべての操作をボタンでもできるようになっています。これはとくに雨の日や冬山で便利に感じるポイントなのではないかと思われます。
逆にコンディションのいいときなら普通にタッチで操作したほうがラク。状況に応じてどちらの操作方法も選べるのがT-REX 2ならではのいいところと感じます。
【いいところ3】デジタル機器としての完成度が高い
これはあくまで私が使ったことのあるスマートウォッチと比較しての話なので、アップルウォッチとかはもっといいのかもしれませんが……。
とりあえず、OPPO WatchとTicWatch Pro 3 Ultra GPSと比べると、T-REX 2の使用感の高さは断然上でした。タッチ操作がスムーズで、各種項目の表示も見やすくデザインされており、そのうえバッテリー持ちもいいときて、ストレスに感じるところがほとんどありません。
スマートウォッチを使うにあたっては、ペアリングするスマホアプリの出来も重要なのですが、こちらもとても使いやすい。さすがスマートウォッチ界で評価の高いメーカーと感じました。
【悪いところ1】デザインがごつい
外観のデザインはGショックとかプロトレックを彷彿とさせるもので、まさにヘビーデューティでミルスペックなイメージ。男子大好きという感じです。
カシオ系よりはシックにまとまっていると思うのですが、ごついことには変わりなく、好みは分かれそう。とくに女性受けはほぼ期待できないと思われます。
ライバルのガーミン・インスティンクト2もごつめではありますが、もっと角が丸いし、女性向けのカラーも選べます。T-REX 2も、もうちょっとユニセックスなデザインでもよかったんじゃないか……。
【悪いところ2】日本語化が甘い
上に書いた「逸脱追跡」のように、日本語表記が最適化されていないところがたまにあります。ほとんどは推測できてしまうので実用上の問題はあまりないのですが、積極的に変えてほしいところもあります。
そのひとつがこれ。
ワークアウトモードの選択画面なのですが、「クライミング」と「ハイキング」が並んでいます。クライミングは岩登りのことかと思いきや、内容はハイキングと同じでした。おそらくMountain Climbing(登山と同義)をカタカナ化してしまったものだと思われます。ここはちょっと混乱するので変えてほしいな。
まあ、こういう部分はスマホと同様、アップデートで修正できるのがスマートウォッチのいいところでもあるので、アップデートを期待します。
【悪いところ3】値段が高い
【2023.1.15追記】
Amazonやヨドバシカメラなどではだいぶ販売価格が下がってきていて、2万円台でも買えるようになっています。この価格なら文句の付けようがなし。圧倒的にコストパフォーマンス高いと思います。
総評
文句も書きましたが、総じて気に入りました。そもそも私がスマートウォッチを使い始めた理由でもあるヤマレコアプリが使えないという大難点はありますが、それを差し引いても使い勝手のよさが上回った印象です。
結果、私のメイン山時計はこれにチェンジすることにしました。せっかく買ったTicWatch Pro 3 Ultraはどうしようということになるのですが、シビアな地図読みが必要な山行専用機として生かそうと思います。
最後に、おそらく比較する人が多いガーミン・インスティンクト2との比較表を置いておきます。
インスティンクト2は使ったことがないので細かいことはわかりませんが、スペック的にはほぼ互角。ディスプレイのクオリティとタッチ操作可能という点でT-REX 2、軽量コンパクト性とSuica対応、そしてカラーやサイズバリエーションの多さという点でインスティンクト2というのが大きな違いでしょうか。あと、1万数千円高くなりますが、インスティンクト2にはソーラー充電が可能なタイプもあります。これはガーミンならではの圧倒的な魅力ですね。
【2022.11.7追記】
T-REX2とインスティンクト2の登山での使い勝手を詳しく紹介している記事発見。細かい設定など参考になります。