この本、面白かった!
一冊を通しての感想は、とにかく「野口健、めちゃくちゃ!」ということ。
気まぐれで、意味不明にすぐキレ、感情的でありながらも計算高く、一方で、情に厚い部分もあり、不可能を可能にする行動力には目を見張り、放ってはおけない人間味というか可愛げもある。この本で書かれている人物像が実像なのだとすると、そのへんにはそうそういない、きわめて奇矯な個性だといえる。私は読んでいてスティーブ・ジョブズを連想してしかたがなかった。
以下、感じたことを思いつくままに列挙しておこう。
■野口健、めちゃくちゃ
良くも悪くも野口健、すごい! もうその印象に尽きる。ここまでむちゃくちゃな人だとは知らなかった。それはたとえば以下のようなものだ。
・大スポンサーがついたエベレスト遠征を「どうしてもピンとこない」という理由で中止
・当時の総理大臣、橋本龍太郎に初対面でイヤミを突きつける(この逸話は私も知っていた)
・事務所からの独立に際して、「この人がすべてを仕切ってくれるから電話して」と、ある弁護士を小林さん(本書の著者)に紹介するが、小林さんが電話すると「野口さんなど知らない」と言われる(しかし事態はうまくいく)
・同じ選挙区で立候補している、党が異なるふたりの政治家を両方公然と応援する
・急にフリーズして執筆途中の原稿データが消えてしまったパソコンをピッケルで破壊
・別の会社に転職した小林さんの名刺を「こんなものは認めん」と言って食べる
・植村直己の妻の公子さんにエベレスト出発前に験担ぎの儀式をしてもらったという、著書や講演会でよく語られている有名なエピソードがあるが、それはほぼ事実ではなかった
・富士山の環境保護に関する記者会見に地元首長を招待。会見場では首長たちの席はなぜか壇上になっており、戸惑う首長をよそに、「野口健氏と各市町村、がっちりタッグ」などと報道されてしまう
もうわけわからないけど、とにかくすごいよ、野口健。こうした「トンデモ人物伝」としてだけでも、本書は楽しめるのではないだろうか。
■是々非々
野口さんに関する文献といえば、「すごい」と称賛するものか、「ニセモノだ」と批判するもののどちらか。しかし本書は、野口さんのダメなところもいいところも、どちらもイーブンに記している。私はここにとても好感をもった。人というのは、そもそも一面的には判断できないものだ。どんな人にだっていいところがあるし、悪いところがある。そこを誇張することも隠すこともなくさらけ出しているのが本書のいいところだと感じた。
■文章が読みやすい
元マネージャーが書いた本だというので、それなりに読みづらいものかと思いきや、とても文章が達者でスルスルと読める。私はほぼ1日で一気に読んでしまった。文章には勢いがあり、読ませる力がある人なのだと思う。本書中でも語られているが、著者の小林元喜さんはもともと小説家志望だったのだという。なるほど納得である。
■ただし構成はややまとまりなし
最後、叙述が駆け足になった印象あり。8~9割くらいまではいいテンポで進んでいたのだけど、最後、バタバタッとエンディングに向かってまとめた感があり、読後感が消化不良でもったいなく感じた。あと、本書を通じて時系列がいまいちわかりにくかったりして、一冊の本としての構成は少々雑に感じる。
■著者の小林さんもクセ者である
小林さんは、学生時代に作家の村上龍の実家にアポなしで突撃して執筆の手伝い仕事を獲得したり、石原慎太郎の自宅にまたもアポなし突撃して、公式サイト制作の仕事を獲得したりもしている。このこと自体がちょっと普通じゃなく、このあたりは野口さんにそっくりだ。さらに、元マネージャーというが、途中で3回もやめている。仕事はできるようだが激情家でもあるようで、野口さんとは似たもの同士だったのかもしれない。
■著者の事情を語る部分は好みが分かれるかも
本書は野口健の人物伝ではあるが、同時に、著者の小林さんの人生の記録ともなっている。そのため、野口さんとは関係がない小林さんの私生活についても、けっこうな字数を費やして記されている。本に奥行を与える必要な記述と私は感じたが、「おまえの人生には興味ないよ」と、余計な部分に感じる人もいるかもしれない。
いずれにしろ、野口健に少しでも関心のある人なら興味深く読める一冊になっていると思う。一気に読める勢いがあるのでおすすめである。
あと、「面白い」だけではなく、考えさせられたこともあった。それについてはイマイチ考えがまとまっていないので別の機会に。
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