2020年4月29日水曜日

今シーズンは見たことがないほど登山者が少なくなるかもしれない




4月中旬、八ヶ岳の赤岳鉱泉が11月まで休業することを発表。大胆な決断に驚かされたが、富士山吉田ルートの山小屋も今年は休業することに決定したらしい。


今後注目されるのは、北アルプスの山小屋の動向だろうか。北アルプスの山小屋は例年、早いところはゴールデンウイークから営業を開始し、10~11月くらいまで営業している。今年はすでにゴールデンウイークの営業は休止が発表されているが、その後のことは未定である。


北アルプスの5月と6月はもともと登山者が少ないので、山小屋が営業しているか否かは登山者にとって影響が少ないといえるけれど、7月からの夏山シーズンがどうなるか。これはかなり注目されるところだ。


北アルプスでいえば、仮に全山小屋が夏の営業を休止したら、登山者の数は例年の半分くらいになるのではないか(富士山では2~3割に落ち込んでもおかしくないと思う。逆に南アルプスは減ったところで7割くらいにとどまるような気がする)。


となると、ひとつのことを思い出す。


昔、6月の平日に穂高に登ったことがある。天気がイマイチだったこともあってか、登山者の姿はほとんど見かけず、涸沢にはテントは1張もなく、まるで無人空間のようだった。


そこで見た風景に私は圧倒された。むき出しの自然と圧倒的な造形美。やっぱりこれは日本一の山岳風景なんじゃないか。明治時代に初めてここに来た人はさぞかし驚いたことだろう……。


それまで涸沢には何度も来たことがあったのだけど、そんなことを感じたことはなかった。そこで私は、これまでは登山者の姿に気を取られて、目の前の自然をいかに見ていなかったかということに気づいた。人がいるということが、山が本来持っている迫力をいかに損なってしまうかということに気づいたのである。


登山者の数が半分に減ってしまうというのは、ここ数十年で例がないこと。もしかしたら今年は、現代人には体験することができなかった北アルプスの姿を拝める千載一遇のチャンスなのではないか。


チャンスなどと言うと、生き残りをかけて究極の選択を迫られている山小屋の方々に大変失礼な言い方になってしまうし、そもそもこういう状態が続いたら私も職を失う可能性すらあるわけだけど、単純に一登山者の目線からすると、こういうことも考えてしまう。




ただし、人が入らないと山は格段に難しくなるということも申し添えておきたい。6月だからといって装備をナメていたこともあって、このときの穂高で私は死ぬ思いをした。30年以上の登山歴のなかで、2番目にやばかったのがこのときだ(1番目の話はまたいずれ)。





これは上記の6月ではなく、別の年の7月に撮った写真なので、雪の状況など誤解なきよう(6月はもっと残雪が多いです)


2020年4月28日火曜日

感情に訴えかける言葉は難しい

【この記事は玉城デニー知事を批判する意図はまったくないことを先にお断りしておきます】


「収束後に笑顔で沖縄を訪れてください」玉城知事、GW訪問自粛を再度呼び掛け - 毎日新聞


このニュースをテレビで見ていた妻が「笑顔で訪れてくださいはおかしくない?」と言いました。私はとくに気にしないで見ていたのですが、言われてみればそのとおりだ。


これは、コロナウイルス感染拡大防止のため、ゴールデンウイークに沖縄に来ないでほしいと玉城知事が訴えるコメントを報じたものなのですが、その前の文章を含めるとこう言っています。


”どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することを控えていただき、収束後には是非、笑顔で沖縄を訪れてください。”


妻が言うには、「笑顔で訪れてください」ではなく、「笑顔でお迎えしたい」というべきだと。沖縄に来ないでほしいということに重ねて、笑顔で訪れてほしいとまで要望するのはやや傲慢に聞こえてしまうというのです。



「どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することを控えていただき、収束後には是非、笑顔で沖縄を訪れてください。」

 ↓

「どうか今は来沖を我慢していただき、沖縄に帰省することも控えていただけないでしょうか。収束後には必ず、笑顔でお迎えすることをお約束いたします。」



確かに後者のほうが爽やかで好感度が高く聞こえる。


まあ、私は気づかなかったくらいで微妙な違いではあるのですが、気づく人は気づくし、聞く人に与えるニュアンスの違いがあることは確か。


日常の会話ではどちらでもいいような違いですが、要望やお詫び、センシティブなテーマのときなどには、こういう微妙な違いに気を配れるかどうかが、問題の解決を左右することもあります。私はお詫び文を書くときには、助詞は「が」がいいのか「を」がいいのかレベルで吟味することもあります。それによって人に与える印象が変わってしまうこともあるからです。


たかが言葉ですが、されど言葉。自分も言葉を扱う者として気をつけたいところです。





*テレビのニュースでは、上記のコメントしか放映していませんでしたが、実際は玉城知事はそれに続いて「その時は最大限の『うとぅいむち』、おもてなしで皆様をお迎えさせていただきます」と言っていたそうです。玉城知事はおそらくこのへんのニュアンスの違いをある程度意識していたであろうことと、報道の切り取りの危うさを感じました。