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2015年6月23日火曜日

「山岳遭難過去最多」は本当に最多なのか

先週、こんな報道がありました。
毎年この時期に警察庁が全国の山岳遭難統計を発表します。
その内容を報じたもので、この朝日新聞にかぎらず、報道各社、見出しも内容もほぼ同じです。


「過去最多」という言葉を見ると、「そりゃ大変なことだな」と思ってしまうのですが、これもう20年くらいずーっと変わってなくて、毎年この時期に同じ見出しで記事が出ることになっています。


でも、登山やってる人はなんかへんだな?と思わないですか?
そんなに年々、山が危険になってる印象ってありますか?
あるいは、そんなに登山者の数が毎年毎年増えてるように感じていますか?


僕は28年前から登山やってるのですが、そのどちらの印象もありません。
とくに危険になった気はしないし、登山者の数もこの遭難件数の増加に見合うほど増えてはいない。山で遭難者の姿を見ることが増えた気もしないし、自分のまわりで遭難した人が増えてもいない。


ではどういうことなのか。


持論なんですが、これは「山岳遭難増加」なのではなくて、「通報件数増加」なのだと思っています。


たとえば15年前であれば、山で携帯電話はほとんど通じなかったので、山中で脚を折ったとしても、人のいるところまで自力で下山するしかなかった。片足で這ってほうほうの体で下山して病院に行ったとしても、警察に連絡しなければ、それは統計にはカウントされなかったわけです。


しかし現在では、山中で脚を折ったら、まずはヘリコプターを呼べないかと考える。
つまり、遭難の数自体は大して変わっていなくて、昔は表に出てこなかった遭難がいまは出てくるようになっただけではないのかと。


実際そんな例はゴマンとあったはずだし、僕自身も山の中で落ちて顔を強打して鼻折ったことがありますが、顔面血だらけのまま歩いて下りました。
もちろん警察に連絡なんかしていません。そもそも携帯電話がない時代でした。


それに加えて、各地で山岳救助隊もずいぶん整ってきました。
昔は山岳救助というと、地元の青年団みたいな人や山岳会などが急遽集められて出かけていたわけですが、いまは主要なエリアでは警察や消防のプロ集団が出動します。
そしてその存在は一般の登山者にもずいぶん知られるようになりました。
「事故を起こしたらまずは通報」と認識が変わってきた背景にはそんな事情もあると思います。


山で事故を起こしたとき、

昔:事故った → いちばん早く下山できるルートはどこだ → がんばって下りる

今:事故った → 110か119に連絡 → ヘリ到着

これが統計数字の差になっているだけなのだと思います。


そう思う根拠としては、自分の体感のほかに、死亡・行方不明などの重大事故の数が数十年前からあまり増えていないことがあります。
本当に山岳遭難が増えているのなら、それに比例して重大事故も増えていないとおかしいはず。
でも、死亡者数は50年くらい前からずーっと200〜300人くらいで、目立った変化がないのです。


死亡者数に関してひとつだけ思うのは、通信と救助体制と道具がよくなったので、昔なら死んでいたような事故が、いまは助かるケースも増えたということ。
だから昔と現在をイコールコンディションで比較できないのはわかります。
ただ、それを考えても、重要な傾向を見いだせるほど事態は変化していないのではないかと思います。


だから報道各社も毎年「過去最多」と記事にして人々の恐怖をあおることはほどほどにして、もう少し突っ込んだ報道もしてほしいなと。
いまの報道は事実は伝えているかもしれないけど、真実は伝えていない。
毎年風物詩のように「過去最多」を見るたびにそんなことを思うのです。



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